第一章 結成までの軌跡




第1話  慈久斗道場の日常



赤曾7年8月12日



「あ〜、暇だ・・・。」


近藤慈久斗(こんどう=じぇくと)は、自宅の道場の畳の上でゴロゴロしていた。


外は真夏の太陽がじりじりと照りつけている。



「おい慈久斗、また昼寝か?」


彼の耳に聞きなれた声がした。


古くからの友人、土方阿乱(ひじかた=あーろん)だった。


「まったく、いつまでゴロゴロしているつもりだ?」


「いいじゃねぇか、俺の自由だろ?」


世間では政治の主体である神羅幕府の権威が傾きかけていた。


時の12代将軍、神羅社長(しんら=ありなが)は倒幕派の多くの浪士を捕らえ、処罰するなどしていた。


その影響もあり、座鳴神門(ざなるかんど)など幕府の勢力が極端に弱い地域では、とても治安が悪くなっていた。





「こんな世の中だ。剣術をもっと磨くべきであろう。」


「まぁそう言うな阿乱。」


慈久斗はようやく起き上がり、酷く乱れた着物を直した。


「その時になれば分かるさ。」


「ほう・・・本当だな?」


「んだよ。信じられないのか!?」


「そうだが。」













「慈久斗さ〜ん、いますか?」


外から穏やかな少女の声が聞こえる。


「おう優奈ちゃん、上がってくれよ。」


「はい!」


慈久斗の声を確認した少女、沖田優奈(おきた=ゆうな)は、下駄を脱いで中に入ってきて、お行儀よく座った。


「あっ、阿乱さん。お久しぶりです。」


「うむ。1年振りか。」


阿乱と優奈が最後に会ったのは、1年前の夏だったはずだ。


「今日も持ってきましたよ!はい、慈久斗さんの好きな煮物。」


「おぉ!いつもすまねえな〜!」


優奈が差し出した包みを開けながら慈久斗が言った。


「まったく・・・、まだ優奈に世話になってるのか?」


阿乱もさすがに呆れて言った。


3年前、妻を失ってから慈久斗は自分ではあまり何もしなくなっていた。


そんな彼を見ていたお隣の優奈は、最近よく差し入れをしてくれる。


結局慈久斗はその差し入れに頼って生活しているのだが。


「まぁまぁそう言うな。お前も食えよ、うめぇぞ〜。」


すでに食べている慈久斗は、煮物を阿乱に差し出した。


優奈の面前なので、阿乱も拒否することはできず、少なからず食べた。


「そういえば汐陽くんは?」


不意に思い出したように優奈が聞いた。


「どうせ裏庭にいるんだろう。まぁ、どうでもいいことだがな。」


食べることに夢中になっている慈久斗にとって、息子の現在はまったく関心の無いことだった。









近藤汐陽(こんどう=てぃーだ)は慈久斗の1人息子。


父親譲りのためか流石に剣術は一流で、実力は、座鳴神門で一番とも言われていた。


この日も道場の裏庭でただ1人竹刀を振っていた。


(・・・流石に暑いッス・・・)


額に汗を流しながら素振りをしていたが、後ろに人の気配を感じる。


「・・・頑張ってるね。」


「な〜んだ、優奈ッスか・・・。」


汐陽は竹刀を置き、縁側に腰を下ろした。


優奈もその隣に並んで座った。


「今日は何しに来たッスか?」


「いつもと同じ。慈久斗さんにいつものを持ってきたの。」


彼女は2日に1度くらい作った料理を差し入れに持ってくる。


汐陽もそれは十分に知っている。


「いつも悪いッスね、あのバカ親父のせいで・・・。」


「いいのいいの。」


縁側で会話を弾ませる2人。








穏やかで平和な座鳴神門の日常。


彼らには、これから始まる出来事を知る由もなかった。












第2話  厳しすぎる現実




赤曾7年8月14日




汐陽はいつもと同じように素振りをしていた。


しかし今日はやけに静かだ。


何かあったのだろうか?





道場の外へ出ようとしたとき、門のそばに人影が見えた。


「ん?誰かいるッス・・・?」


年は20歳前後といったところだろうか。


珍しく入門者?でもどこか様子がおかしい・・・。


よくよく見ると、彼は血が流れる左肩をおさえているようだ。


「な、何があったッスか!?」


「・・・ガルバディアの兵士に追われている・・・。」


そういえば、さっき阿乱にガルバディア船上陸の話を聞いた。


彼の怪我は、そのガルバディア兵にやられたものなのだろうか?


「・・・少しの間、建物の中にかくまってくれないか・・・?」


「・・・いいッスよ。」


特に断る理由も思いつかなかったので、汐陽はそれを了承した。





彼を道場内にかくまって数分後―――


塀の外を大勢の人の足音が聞こえる。


恐らく、この男を捜しているのだろう。


その足音は数分後には聞こえなくなった―――





汐陽は様子を見に、門の外へ出た。


いつもは多くの人で賑わう通りも、今日はほとんど人がいない。


「・・・そこのお前・・・。」


「ん?」


声をかけられ振り返ると、ちょっと暗い雰囲気をした男がいる。


さっきの男と見た目年齢は同じくらいだろうか?


「今夜、ガルバディア軍がこの町で何かをするらしい・・・気をつけろ」


「あんたは誰ッスか?」


「私の名は敏銑斗(う゛ぃんせんと)・・・。またどこかで会うだろう・・・。」


「ちょっ、待っ・・・!」


汐陽が声をかけようとしたときには、その男は姿を消していた。


「・・・?」







その夜。


汐陽は1人、自分の部屋で考え事をしていた。


まずは昼間助けた男のこと―――


汐陽が戻ってきたときには既に彼はいなくなっていた。


なぜ何も言わず去ったのだろう?


なぜガルバディア兵に追われていたのだろう?


そういえば、結局名前も聞けなかった。





そしてもう1つ・・・


(今夜、ガルバディア軍がこの町で何かをするらしい・・・気をつけろ)


敏銑斗という男のいっていた言葉。


しかし汐陽は、それを深く考えぬまま眠ってしまった。









「・・・うっ・・・!?」


物凄い暑さを感じ、汐陽は目を覚ました。


真っ先に目に映ったのは燃えさかる天井だった。


慌てて飛び起き、周りを見ると、燃えているのは天井だけではなかった・・・。





「は、早く逃げないと・・・!!」


汐陽は手元にあった刀を手に取り、出口に向かった。


しかし、火の回りは早く、すでに道場、家、全てに燃え広がっていた。


いや、正確には座鳴神門という街そのものが燃えていたのだ。


「こんなとこで死ぬわけにはいかないッス・・・!」


彼は家から飛び出すと、無我夢中で走った。


途中何度も転びそうになりながらも、彼は走り続けた。


燃える座鳴神門を出たところで、彼の意識はもうろうとしてきた。


そして視界が徐々にぼやけていった―――。










―――汐陽は悪夢を見た。



―――自分の育った国がなくなる




―――座鳴神門がなくなる夢・・・。



―――全てを否定したくなった。




―――これは夢だ―――単なる夢なんだ―――と。










「はっ・・・!?」


目を覚ますと、汐陽は布団の上にいた。


起き上がると、右足に激痛が走った。見ると大きな火傷の跡があった。


「気がついた?」


気づくと見知らぬ少女が傍にいた。


「ここはどこッスか?」


汐陽は率直に聞いた。


聞きたいことは山ほどあったが、まずは自分の今を知りたかった。


「・・・ここは摩乱打(まらんだ)の宿よ。」


摩乱打は座鳴神門から一山超えたところにある都市。


「オレは、どうしてこんなトコにいるッスか?」


「あなた、覚えていないの!?」


その少女は近くにあった新聞を取ると、汐陽に渡した。


なお、この時代に新聞があるのかというツッコミは避けてほしい。


その一面記事には・・・。





「昨日未明、座鳴神門にて謎の火災発生。死者は約1万人に上る模様。」







「・・・!」


汐陽はようやく思い出した。


自分が炎に包まれた部屋にいたこと・・・。


必死に燃えさかる座鳴神門から逃げたこと・・・。


そして・・・故郷を失う夢を見たこと・・・。


結局それは夢ではなかったのだが―――





「座鳴神門と摩乱打をつなぐ道で倒れているのを私の兄さんが見つけて、ここへ連れてきたの。」


「そうだったんだ・・・。」


汐陽は心には1つの安心感と、数え切れないほどの孤独感、絶望感が浮かんだ。


死者約1万人―――


1万人いたかいないかという程の人口しかない座鳴神門にとって、その数字は大きすぎる数であった。


現実に今ここには自分しか助かっていない。


他の人たちは・・・?


阿乱――、優奈――、それに…親父―――


みんなここにはいない。


でも今は自分を助けてくれたことを感謝するべきだろう・・・。


「ありがとう・・な、助けてくれて。オレ、近藤汐陽っていうんだ。」


「私は氷神紫杏(ひかみ=しあん)。待ってて、今兄さんを呼んでくるから・・・。」












それから数時間が経った。


夕焼け空の下、汐陽は1人、摩乱打近くの丘に立っていた。


丘の下には摩乱打の街と、夕日に照らされた海が見える。


あれから紫杏の兄に尋ねたが、他の人達の消息は分からないままだった。




(オレ、独りになっちまったのかな・・・。)



ただ孤独感だけが胸をよぎる。


17歳の青年にとって、虚しすぎる現実がそこにあった。








第3話  旅立ちへ



赤曾7年8月22日





摩乱打にある宿屋『打霧紫杏(だむしあん)』


汐陽がこの宿に居候するようになって、早1週間が経った。


今朝も紫杏と彼女の兄・十稲(といな)とともに朝食をとっていた。


「汐陽君、ちょっと紫杏と一緒に町の市場に行ってくるから、留守を頼めるかい?」


「いいッスよ。」


汐陽はタダで寝泊りさせてもらっている代わりに、宿の留守番をしているのである。









十稲が出て行って数分後、




ガララッ!!


勢いよく扉を開けて1人の茶髪の青年が入ってきた。



「いらっしゃ…って芭津じゃないッスか!!」



「よう、暇だったから来たんだ。また留守番か?」


「まぁ、そういうことッス。」



彼の名は鞍胡解芭津(くらうざ=ばっつ)――


汐陽がこの町で知り合った立楠(りっくす)藩の浪士で、今一番の親友である。




留守番を頼まれることの多い汐陽にとって、彼との会話はとても楽しいものだった。


「今日はどうして来たッスか?」


「…さっきも言ったけど暇だったからな、また座鳴神門の話聞かせてくれよ。」


「別にいいッスよ〜」


2人は畳に腰を下ろすといろいろと話し始めた。


とはいえ、そのほとんどは汐陽が1人で座鳴神門での話をしていて芭津がそれを聞いているだけだった。



そんなこんなで約30分が経ったとき、芭津が思い出したように声をあげた



「あ!そうだ思い出した。お前に話さなきゃいけないことがあったんだ。」



「へ?どんな話ッスか?」


「昨日都の方から来た人が言ってたんだけど、南の瀞伊阿(とろいあ)で汐陽の言ってた『行方不明の親父たち』のような2人組みの中年男を見たらしいぜ?」


「…!!まさか、別人じゃないッスか?」


もちろんこの世には同じくらいの年の親父が何万といる。


汐陽も当然それが自分の親父たちだなんて信用できるはずも無かった。


だが… 




「それでよ、そのうちの1人は随分とだらしない格好をして、酒に酔って乱闘を起こしてたらしい。それに持ってた刀には座鳴神門の紋が入ってたらしいぞ…。もう1人のほうは結構渋い男だったとか…。」


(そんなバカはうちの親父以外ねぇ〜〜!!そして渋いのは阿乱だ〜〜!!)


「今さっき言ってた特長とピッタリ合うじゃん。な?」


「そ、そうッスね…。(恥ずかしいッス…)」


そこまで言われると流石にそれが自分の親父である確率は80%を超えていた。





その後しばらく沈黙が続いたが、芭津が先に口を開いた。


「…なぁ汐陽、旅に出ないか?」


「へ?旅?」


「あぁ、お前の親父たちとオレの親父を探しにさ…。」


「お前の親父?」


「あれ?前に話さなかったっけ?」


「ああ、そういえば…。」





そういえば以前に芭津本人から聞いたことがあったのだ。


それによれば、芭津の父親も3年前に行方不明になったということだった。


「ん〜…急ッスけどそれもいいかもしれないッスね。いつまでも十稲さんにお世話になるわけにもいかないし…。」


「じゃあ後でまた来るから、その話十稲さんに言っておいてくれよな。」



「分かったッス。」













それから約2時間後の『打霧紫杏』にて…。


「…というわけで、その…旅に出ようかと…。」


「なるほど、君たちの親探しか…。」


座りながら話を聞き、ふむふむと十稲はうなずいた。


「行く、行かないは君たちの自由だ。君たちが行くというのなら反対はしないよ…。」


十稲は立ち上がりそのまま部屋から出て行こうとしたが、不意に立ち止まって言った。


「…旅に出るなら、僕から『お願い』があるんだけど…聞いてくれるかい?」


「もちろん!お世話になったお礼ッス!」


「本当かい?じゃあ後で頼むよ。」


「へ?」










翌朝…。



「では、これで失礼します…。」


まだ日もそんなに昇っていない早朝に、彼らは出発することにした。


「うん、元気で。またいつか会えるといいね。」


「はいッス!…あ、あと紫杏にもよろしく」


「分かった。伝えておくよ。」


2人は十稲が見えなくなるまで手を振った。




そして今になって芭津は何かに気がついた。


「あれ?十稲さんの『お願い』って結局聞かなかったよな?」



「そういえば…。でも今から戻るってのも変じゃないッスか?」


「そうだな〜…ん?汐陽あれは…」


「え?あれって…?」



芭津は街の入り口の方を指差していた。


よく見ると街の入り口に誰か人影が見える。


しかも明らかに見覚えのある…。










で、それは





「…紫杏!?」


「何もそんなに驚かなくてたって…」


「だ、だって…。何でここにいるッスか?」


汐陽が問いかけると、彼女は1通の手紙を差し出した。


それにはこう書かれていた。








『汐陽くん達へ〜〜



僕はだいぶ前から宿を閉じて部辺琉(べべる)で色々と勉強をしようと思っていたんだ。


でも妹の紫杏のこともあったからこれまで止まっていた。


だけど君たちが旅へ行くと聞いてこれは良い機会だと思ったんだ。


で、本題。


せっかくだから紫杏を旅に連れて行ってもらいたい。


紫杏は意外と剣術もできるから足手まといにはならないはずだよ。


ちなみにこれが僕からの「お願い」さ。


いつかまた会う日まで紫杏を頼んだよ。


                氷神十稲より』





「(…随分と勝手な意見だな、おい!)」


これが手紙を読んだ芭津の第一感想である。



「どうするんだ?汐陽…。」


「別にいいじゃないッスか!旅は人数が多いほうが楽しいッスよ!」


随分と楽天的な考えだなぁと思いつつも、


「ま、いっか。じゃあこれからもよろしくな!」


最終的には芭津も同意した。


「うん!これからもずっとヨロシク!」



紫杏もそれに笑顔で返すのだった。




「さっ、出発するッスよ!」


かくして旅へ出発した汐陽、芭津、紫杏の3人。



しかし、
この親探しの旅が思わぬ方向へ進んでいくことを3人はまだ知らなかった―――





第4話  道中騒動あり!

赤曾7年8月24日。

 


汐陽たちが摩乱打を出て3日が経った。


この日時代は大きく動いた。

 

牙軍の攻撃を恐れた洲比羅は、ガルバディアと『洲牙和親条約』を締結した。 

 

 

そんな事が起こっている頃、汐陽達は―――

 

 

 

 

 

 

 

「おいし〜!」

 

「おっさん!お団子3本追加ッス!」

 

「あっ、俺も3本追加!」

 

 

 

 

・・・のんきに茶屋で団子を食べていた。(ぇ

 

 

「まったく世間も大変なことになってきたッスね〜。」

 

「んなのんきな言ってる場合かよ…。」

 

 

 

 

そんなとき、

 

ドドドド・・・

 

誰かが物凄い砂埃をあげながら猛スピードで入ってくる。


「まったく騒々しいわね!一体誰よ・・・」

その人物は見たトコ汐陽たちとほぼ同年代の青年のようだ。

その青年は猛スピードのまま茶屋の前を通過し・・・
 

キキキィィッッ!!!
 

・・・突然止まった。

 

 

「・・・っとと、あれ?・・・ひょっとして芭津!?」
 

「ん?・・・って竢丹じゃないか!何してるんだよ!」

芭津は驚いたような顔でその青年に言った。
 

「何、芭津の知り合いなの?」
 

「ああ、こいつは種部竢丹(たねべ=じたん)っていって…まぁ、俺の昔からの友達なんだ。」
 

「ふ〜ん、で何かあったッスか?」

「な、何か怖い奴らに追われてるんだ!ちょっと助けてくれないか!?」

 

「どうするの?芭津、汐陽・・・。」

 

紫杏は2人を見る。

 

「んなの決まってるッスよ!困っている奴は助ける!」

 

 

 

とその時、竢丹の来た方から、3人の男女が同じく猛スピードで近づいてきた。

 

 

 

――1人はド派手な衣装に身を包み、手に扇子らしき物を持った女。

――1人は長身で細身、そして鋭い目をした、刀を持った男。

――1人はさっきの男とは正反対に体の太い男。手には円盤状の武器を持っている。

 

…っと、どっかで見たことのある3人組です。

 

きっと走りにくそうなことこの上ないだろうね。

 

 

 

「その男に用がある。」

 

長身の男が、刀を構えて言った。

 

「どんな用件ッスか?」

 

「お前らには関係のない事だ。部外者は口出をするな。」

 

「竢丹は俺の友達だ!用があるならここで言えばいい。」

 

「なんだと!?」

 

すぐにも刀を抜きそうな長身の男を、横にいた体の太い男が抑えて言った。

 

「そいつ、お嬢にぶつかったのに謝らねぇんだ。」

 

その体の太い男が言った。

 

「何度も謝ったじゃんか!」

 

竢丹が叫んだ。

 

その時、初めて真ん中にいる女が口を開いた。

 

「そんな謝り方じゃだめだね。とにかく、言うとおりにしないと・・・、」

 

「しないと・・・?」

 

辺りに緊迫した空気が流れる。

 

「お前達!!やっちゃいな!!」

 

「え!?」

 

 

 

 

女が命令すると、長身の男が刀を抜いた。

 

「何でいきなり刀抜くんだよ!?」

「問答無用!」

 

仕方なく、汐陽、芭津、竢丹も武器を構える。

 

竢丹の武器は基本的に『盗賊刀』と呼ばれる、特殊な刀だ。

 

「俺たちに刀を向けるとは・・・後悔するなよ、小僧共!」

 

「後悔なんてしねぇよ!さっさとかかってきな!」

 

芭津が長身の男を挑発して言った。

 

 

 

「くっ・・・ならば、必殺剣技・・・『みだれ錦』!!」



電光石火ごとく振った刀から発せられた力が3人を襲う



「まだまだ!『蝉しぐれ』!!」



長身の男はさらに連続してその刀を振りまくっている。



・・・そう、我を忘れて(ぇ



「へっへ〜!後ろガラ空きだな!」



そのスキをついて汐陽は背後から一撃を決めようとした。・・・が


 

「油断したなぁ!喰らえ『飛翔光輪斬』!」



「!?」


 

背後に潜んでいた、太い男の投げた円月輪が綺麗な直線軌道に沿って飛んでくる。

 

(やばいッス…!)

 

 

カキィィ―――――――ン・・・・・・

 

 

「・・・!?」

 

ギリギリのところで、紫杏の抜いた刀がその円月輪を弾いた。

 

「ふぅ、危なかったね。これでまた1つ貸し・・・ね!」

 

「ああ、ありがと・・・ッス!」

 

 

一方の太身の男は、

 

「何だあの女!あと少しだったのに〜〜!!」

 

バシッ!!

 

地団駄を踏んで悔しがる太身の男に、女のハリセンがとんだ。

 

「うるさいよ!無駄口たたく暇があったら、奴らを何とかしな!」

 

「く・・・も、もう一度『飛翔光輪斬』だ!」

 

パキィィィン―――――――……

 

「へ・・・!?」

 

突然、太い男が投げかけた円月輪が粉々に砕けた。

 

「だ、誰だ!?」

 

気づくと見たことの無い若い男が1人、大きな刀を手に立っていた。

 

いや、見たことがないのは汐陽を除いてだ。

 

 

「何だ貴様!貴様もその小僧共の仲間か!?」

 

「別に・・・」

 

男はぶっきらぼうに答える。

 

 

「貴様・・・!何者だろうが俺たちに刀を向けたということは敵・・・容赦はしな・・・」

 

バシィッッ!!

 

「うるさいよ!早くあの男を小僧もろとも始末しな!」

 

「し、失礼お嬢!今すぐ・・・」

 

「話が長すぎたようだな・・・」

 

「何!?」

 

「霧国神羅流剣技…」

 

男が目を閉じ念ずると、彼の刀がオーラを纏い始めた。

 

「く!必殺剣技・・・」

 

「遅いな…『破晄撃』!!」

 

カッ…!!

 

刀から発せられた一閃の強い光がおさまった時、あの3人は吹き飛ばされ倒れていた。

 

長身の男の刀などは見事に破損していた。

 

 

「…まだやるか?」

 

男はキッと3人組の方を睨む。

 

「こ、今回はこれくらいで勘弁してやる〜〜〜!」

 

「待ってください!お嬢〜〜〜〜〜〜!!」

 

 

 

 

「ありがとう、助かったよ。」

 

「友達なんだから当然だろ?それよりも・・・。」

 

芭津の視線は、先ほど現れた男の方を向いていた。

 

 

「あんた、何者だ?」

 

「・・・そんな事はどうでもいいだろう。」

 

「いや、でも・・・・・・。」

 

「オレ、その人知ってるッス。確か、座鳴神門で・・・。」

 

そう…

座鳴神門が燃えた日、汐陽がガルバディア兵の追っ手からかくまった男だ。

 

 

「おお!何だ汐陽の知り合いだったのか!」

 

「いや、別に知り合いって訳じゃ・・・」

 

「いいじゃないか、助けてもらったんだしさ。きっとこの人も友達を見捨てられない性分なんだよ、きっと!」

 

「・・・そんな事に興味はない。そこにいる汐陽という奴には借りあったから手助けした・・・、それだけだ。」

 

「と、とにかく助かったッス。感謝するッス!」

 

「ふん・・・。」

 

男は、1人歩き出した。

 

「そうだ!名前くらい教えてくれよ。」

 

「…俺の名は伊東蔵人(いとう=くらうど)・・・。また何処かで会うかもな・・・。」

 

蔵人はそれだけ言うと、一人去っていった。

 

 

 

 

 

それまでの様子を見ていた茶屋の主人が出てきて言った。

 

「あんたら強いな〜。あの琉舞蘭(るぶらん)一味を倒しちまうとは・・・。」

 

「琉舞蘭一味・・・?」

 

「そう、この辺りじゃ有名な三人組さ。真ん中にいた女が首領の琉舞蘭。長身のが通称『左脳(さのう)』、太っちょなのが通称『右脳(うのう)』ってんだ。」

 

「へ〜…で、アイツらこんなトコで普段何やってるッスか?」

 

「あんたらみたいな旅人に因縁つけては金を脅しとってんだよ。それにしても琉舞蘭一味に勝ったのはワシが知る限りでは初めてだな…」

 

「・・・アイツらそんなに強い奴らなのか?」

 

その場にいたほかの誰もそうは思えなかった。

 

印象としては口だけ達者な・・・

 

 

 

「ところであんたら、都の浪士募集に行くのか?」

 

「え?何のことッスか?」

 

「何だ知らないのかい。実はな、今都では幕府が『浪士組』ってのを造るために浪士を募集しているらしいのだ。」

 

「浪士組・・・?」

 

「うむ。前に通りかかったお侍さんに聞いたんだが、何でも都の治安維持のための組織らしい。あんた達、行く当てがないのなら行ってみたらどうだね?」

 

「ねぇ行ってみようよ!当てもないんだし、都に行ってそれから考えればいいでしょ?」

 

「そうッスね。どのみちそっちの方に行くつもりだったし…。ま、とにかく出発するのが先ッス!」

 

「なぁ、俺もついていっていいか?」

 

それまでちょっと距離をおいて話を聞いていた竢丹が言った。

 

「もちろんッス!な!」

 

「ああ!当然だぜ!」「うん!」

 

 

「さ、早く出発しないと日が暮れるッスよ〜〜!!」

 

1人増えた一行は都に向かって歩き出した。

 

すでに日は暮れ始めていた。

 

 

 

 

・・・彼らは日没までに次の街に着くのだろうか(汗

 

 

 

 

 

そんな彼らをひっそりと追う影が1人。

 

「(・・・ふむ・・・やはりあの汐陽という男・・・気になるな)」

 

どこかで見たことのあるその男は彼らと同じ道を歩いていくのだった。


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